バルチック艦隊技術将校,ポリトゥスキーの日記

11月29日

前便の書面はまだ書き終えていないが,汽艇は陸に向けて出帆した。この汽艇で送られた最後の郵便物は明朝にヨーロッパに向けて出帆する汽船に間に合うはずである。
提督は艦船と陸上の間の交通を日没後から明け方までは禁止にした。昨夜10ごろに,提督の特別の許可を得ないで出船したドンスコイの脚艇を碇泊場で拿捕した。このために当直の将校は3日の禁固に処せられた。そして今夜もまた,碇泊場で提督の許可を得ない3名の士官が乗り込んだ端艇を拿捕した。
本日の命令書で,ドンスコイの艦長に対する宣告が公になった。また3名の士官は軍法会議にかけられることになり,彼ら士官は明日ヨーロッパに向けて出帆する汽船に移乗させ,ロシアに護送させられる。艦隊がいかに厳重に犯則者を処分するかがわかる。

夜9時,今日アレキサンドルの水先案内は,同艦乗組員がデカルから誘拐してきた黒人のことを話した。この黒人が乗ってきた脚艇がアレキサンドルの舷側を離れたとき,この黒人は大いに怒り,猛り狂って小舟のことを罵り,さらに裸足で甲板の上を踏みならし乗員を拳固で威嚇するなどの騒ぎを起こした。アレキサンドルがすでに錨を上げて動き始め,到底同艦から逃れられないことを悟ると,この黒人は砲塔の傍らに座って,今度は熱涙を注いで泣き出した。乗員は黒人の周囲を取り囲み,この頑健な青年があたかも猛獣が吼えるように泣いているのを笑いながら見ていた。その後,彼は何もされないことを知って安心したようであるが,嫉妬深い性質とみえて,ずっと妻のことを心配していた。乗員はすぐにこの黒人と親しくなって,いくつかのロシア語を教えた。記憶力はなかなかよく,数日間で乗員の半数の名前を覚えてしまった。
乗組員がもっとも珍しいと思ったのは黒人の足の裏の白さである。黒人の足裏は概して白い。水兵などは,これを面白く感じたのである。
将校たちは,この黒人に帰りの旅費として60ルーブリを集めた。彼は非常に喜んだ。この黒人はある商店に勤めているとのことで多少は開化している。彼はフランス語を自由に話すことができる。

2005/11/29 in  | posted by gen

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