バルチック艦隊技術将校,ポリトゥスキーの日記

11月1日

ビゴからタンジールに向かう途中である。昨夜,前進する許可があった。今日7時に私たちの支隊は抜錨してビゴ湾を出航した。こうしたことで,ついに上陸することはできなかった。
昨日,アナズイリの機関士が上甲板から船倉に落ちた。しかし幸いなことにけがはなかった。
新聞に載った噂では,ドイツ海で汽船を砲撃したときにアウローラの牧師が負傷し,いまタンジールの病院に入院し,全艦隊もここに投錨したという。我が艦隊はそこまで同所に碇泊する必要はない。同所には碇泊場所もなく,まったくの外洋であってビゴとは大いに趣を異にする。ビゴは世界でも容易に得がたいほどの良湾である。湾内は水深が深く,また非常に広い。スペイン人は,このような天与の富源地を利用する能力がない。ビゴはたしかに世界的商業貿易を行うのに良港であるにもかかわらず,いまは海岸の哀れむべき一小都市に過ぎない。スペイン人は概してかなり貧乏であるように見える。それは彼らが非常に怠け者だからである。
ビゴの重要な貿易は鰯であり,同港には鰯の水産業場が設置されている。この鰯は湾内で獲れ,湾内の海面は各漁業組合のために四方四角に区画されたいくつかの漁場に分かれている。鰯を獲るために漁夫が他の組合所有の漁場に入って漁をすることは組合間で厳禁されている。もしこの禁を犯せば,たちまち喧嘩が起きる。この湾内には,この規約を犯す者を見張って,もっぱら喧嘩を業としているような船もあり,この船は規約を犯す者を見つけるとすぐにこれを捕まえて,復讐するためにその船を海岸に曳いていく。
天気はよい。しかし,すぐ近くも分からないほどの暗闇で星も見えず,上甲板にはやむを得ず必要な灯火を残すのみで,どこも真っ暗であり,互いに鉢合わせをもし兼ねないほどである。
アリョールは,また推進機の機関を破損したらしい。しかし,ともかくも操縦して他艦と進航をともにしている。
夜10時ごろ,我が艦隊を追尾してくるあやしい船舶を認めた。その船舶はいまや我が艦隊を包囲し,われわれと同じ航路を採って進んでいる。5,6隻である。夜半,まったく暗黒であったが,そのときこれらの船舶は,ことさらにわれわれを挑発するような態度をとった。すなわち,あるいはその全艦の灯火を隠し,あるいは我が艦隊を追い越し,あるいは追尾し,さらには我が艦隊に接触するほどに接近してくるなどの行動をする。
いま我が支隊は,この不明の船舶群のあたかも半円形の中に囲まれて進行している。この船舶の中の一隻が探照灯をもって他の一隻を照らしたとき,私たちがその艦影を熟視すると,その形状から推測して,これらの船舶は軍艦に違いない。彼ら艦船の行動の様子,灯火信号のこと,または彼らに遭遇した地点などのすべてを記録するよう命令が発せられた。乗員には吊床を与えず,大砲のそばに寝させることになった。
夜,少し明るくなって星影も現れたが,それもたびたび密雲に覆われた。この夜景の様は,燦然たる銀河の眺めなどの故郷タシケントの夜景を思い出させる。いま私たちの支隊を囲んでいる艦船は英国艦隊に違いなく,夜が明ければ姿を消すであろう。速やかに太洋に出なければならない。太洋に出て100マイルぐらい離れて航行すれば,何人にも認められないはずである。

2005/11/01 in  | posted by gen

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