バルチック艦隊技術将校,ポリトゥスキーの日記

11月2日

英国艦隊は,終夜我々の艦隊にぴたりと付いていたが,いまどこかに航走して去っていった。
朝8時の時報が報じられるとまもなく,アリョールは信号を掲げて推進機を破損したことを報じた。諸艦はみな進むのを止めた。アレキサンドルは端艇を降ろしてアリョールに海軍技師を遣わした。
9時,我が各戦闘艦とアナズイリはタンジールに向けて航走した。途中ときどきポルトガルの陸岸を眺望する。
我が各戦闘艦の進行を止めたとき,英国人はこれを,敵意を持つ示威行動と解したようである。彼らは迅速に一列に集まってただちに戦闘序列をつくった。ああ,この悪漢,狡猾で到るところ破廉恥(な行動)を演じて顧みない海上の優強者,ロシアの不倶戴天の仇敵,全世界はこれを憎んでいる。しかしみな,恨みを呑み込んで忍耐している。もしあなたが,スペイン人がいかに英国人を憎んで誹謗するかを見たなら,果たしてどう思うであろうか。彼らは憤慨して鉄拳を固め,もしなし得るならば何事をもしかねない有様である。
この海上の王が私たちの航海に妨害を加えることは,果たしてどのぐらいであろう。妨害はことごとくみな英国人の仕業でないものはない。私たちはすでに9か国の沿岸を通過した。スウェーデン,ノルウェー,デンマーク,ベルギー,オランダ,英国,フランス,ドイツ,スペインなどの諸国である。いまは10番目の沿岸――ポルトガルを通過している。ポルトガルは英国の同盟国とみなされる国で,至るところ英国贔屓とのことである。
夜,我が艦では皇帝アレキサンドル三世の記念の祈祷があった。
英国艦隊は,終日私たちをつけまわし,少しでも暗くなると,またも半円形をつくって我々を包囲する。彼らが灯火をつけて航進するときには,昨夜演じたような所作はしない。もし何事もなければ明日の3時ごろにはタンジールに到着する予定である。
1時間前にポルトガルのセントビンセントの岬を通過した。往年の大海戦があった古戦場である(長村注:1805年のトラファルガーの海戦のこと)
大雨があったが室内は息苦しく,蒸し暑くなった。私たちをつけまわす英国巡洋艦の数は増加して10隻になった。我が支隊は完全に彼らに取り囲まれながら航進している。英国艦隊に比較すれば,我が艦隊はいかに小弱なことか。英国艦隊はいつまで長く我々をつけまわすのか。ジブラルタルまでか,あるいはまだ先まで行くのかもしれない。
乗員はまたも服を脱がずに大砲のそばで横になる。このため,水兵は非常に疲労している。

2005/11/02 in  | posted by gen

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