バルチック艦隊技術将校,ポリトゥスキーの日記

11月7日

5日の朝,タンジールを出航し,いまダカールに向かっている。ダカールはアフリカ西岸にあって,セントルイ(長村注:St.Louis)およびベルデ岬(長村注:Cape Verde)からも遠くない地で,フランス領である。
あなたに二日間も書簡をしたためることができなかったのには,二つの原因がある。ひとつは大いに立腹していたこと,もうひとつはかなり忙しかったためである。タンジールであなたからの返事を得られなかったことに私はひどく怒った。昨日は深夜まで製図と計算に没頭し,休む暇もなかった。
タンジール抜錨の際にアナドルイ(長村注:このような名称の艦船は艦隊にいない。おそらく運送船のアナズイリのことであろう)の錨が海底電線に引っかかってしまった。このとき,提督の命令でカーベリ(原注:海底電線)を切断した。たぶんこのできごとによって,またも一場の外交談判が始まることだろう。英国人はかならず,カーベリの切断は我が艦隊がタンジールを出航することを誰も発信できないようにするために,故意に切断したというであろう。幸いにカーベリはフランスのものであるが,もしこれが英国のものであったとしたら,悪評は一層甚だしいものとなるだろう。
タンジールで一種独特の虹を見た。その虹は,一端は山の端から始まって,満天に広がっているものであった。
夜7時,やるべきことが非常に輻輳した。朝から始めて,いまも執務を続けている。たぶん,この図と書類を持って深夜まで座り続けることになろう。あなたはこの書簡をすぐには手にすることはできまい。後には,書簡を送ることも次第に稀になるものと思う。わたしたちはまもなく出航の港から到着の港まで17~18日間を要する,非常に長い航海をしなければならないからである。長い間,書簡が届かなくとも,けっして驚いてはいけない。また心配することもない。今度の航海では,むしろこれが常態なのである。
私が土に足をつけなくなってから,すでに23日になる。陸には少しも寄らずに,できるだけ早くウラジオストクに着くことを願うばかりである。
私は四辺のものにすべて飽きてしまい。吐き気を催すほどに嫌になった。人は太洋は美観というが,かならずしもそうではない。実に緑の水は美しくないことはないが,それは波が穏やかなときである。海が荒れているときはどうであろう。荒れる海は,あたかも愚かなる意味なく激怒する物質以外の何者でもない。海は美しくないとはいわないが,それは陸岸と相まっての眺めがよいのであって,ただ海だけでは,けっして愛すべきものではない。

2005/11/07 in  | posted by gen

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