バルチック艦隊技術将校,ポリトゥスキーの日記

12月19日

とうとう12月19日(ロシア皇帝の命名日)になった。まったく思いもよらない意外の地でこの日を迎えたことになる。
私はクロンスタットでもペテルブルグでも,またツァルスコエ,セロ,タシケントあるいはボルターワに乗り込んだときのゴフランドにおいてもその祭日を迎えたことがあるが,いまは喜望峰でこれを迎えることになった。アフリカ南岸でこの日を祝うことになろうとは夢にも思わなかった。
今日は奉神礼および感謝の祈祷を行い,各艦からは祝砲が放たれた。もしこのことを知らない者が大砲の音を聞いたら,新聞には必ず戦争があったという記事がのるだろう。
まだ喜望峰にまでは来ていない。

いまケープタウンに向かって大洋の中を航行している。いわゆるアフリカ南岸の机山を望見できるが,この山はもっとも高い山の一つである。大西洋の波は実に巨大である。艦船の動揺は甚だしく,ナヒーモフドンスコイはとくに激しく揺れるさまは恐ろしいほどである。
これによって私は大洋の波濤に関するひとつの思想を得た。この波濤は普通の波浪に過ぎないが,風のない波で,その原因は数日前に吹いた風によって起こされた,いわゆる余波である。風は凪いでも海は数日間は荒れる。波は高く,かつ長い。波が寄せてくるときは海水の山脈を見ているようだ。この水の山は甲板よりも高く上がる。波の高さがときに70フィートに達することがあるというのだが,これは自ら体験した旗艦の航海長の話である。しかし書物によれば,波の最高の高さを43フィートと記している。
もし船体がこの波の上に乗り上げることが遅ければ,この巨濤の水は甲板を洗い去ってしまうだろう。
天候がよいときには,我が艦隊が喜望峰およびアガラス-一言で言えばアフリカを回るときに波はそんなに大きくはならないという。願わくはそうあってほしい。人々はみな喜望峰付近の天候を恐れている。喜望峰付近の航海の危険と,いつも海が荒れるということは,私が小さいときに読んだ本で覚えている。
日中,スワロフの甲板で水桶の遊びをした。この遊びの仕方は次のようである。まず水を入れた桶を高くつるし,その桶に穴を開けた短い板を取り付ける。遊ぶ人はこの板の下に行って長い棒で桶の下に付けた板の穴を突く。この穴に突き当たることは稀である。多くは棒が穴に当たらず桶を突いてしまうので,その場合には桶の水をかぶってしまうのである。

艦隊は海岸近くを航行している。海岸の向こうには山が連なり,暗澹たる光景を呈している。しかも樹木がなく机山は高く,しかも険しいところは他の山と大きく異なる。その険しさは,あたかも山を切り割ったようである。それが机山という名の由来である。
喜望岬は不定形な断崖で,ここに灯台がある。この岬とケープタウンを通過した。夜,アガラスの岬に達する。ここがアフリカの最南端で,ここにも灯台がある。ここを過ぎれば大西洋からインド洋に入る。ここで我が艦隊はひとつの大洋を過ぎたが,まだインド洋と太平洋が残っている。距離からすれば,私たちはいまペテルブルグからもっとも遠い位置にあって,いままでは日本からずっと離れたままであったが,これからは次第に日本に近づくことになる。
ケープタウン付近で米国旗を掲げた4本マストの巨大な帆船に出会った。この船は我が艦隊に向かって進んできた。
海上はいまだに静かにならない。巨濤は依然として我が艦を揺らしている。もしナヒモフドンスコイなどに乗っていたら,非常に心地悪い思いをすることだろう。

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19日の続き
三隻の怪しいスクナー型船が我々の艦隊に向かって進んでくるのに出会った。天気は荒れ出した。1時間もすれば我々はペテルブルグと同経度に到達する。ペテルブルグとは時刻も同じである。すなわち12時である。
海は非常に荒れてきた。アフリカを暴風に遭わずに回ることはできないとみえる。このような風波では怪しいスクナー型船に対して行動を起こすことも難しい。また,我々の艦隊と同一航路をとって追尾してくる汽船がいる。この船は最初灯火を掲げていたが,いまは灯火もみえない。いままでは月が照らしていたが,まもなく月は落ちてまったくの暗闇となった。ここでどのような危難が襲ってくるかもしれない。我が提督はレーズウィのような小駆逐艦を艦隊に加えて一緒に進めることを欲していない。小駆逐艦の一部の士官は他の艦船に移乗させられることになる。運送船マライヤ,およびクニャーズゴルチアコフも同様にマダガスカルからロシアに帰還させられる。これら運送船の機関はいずれも不完全でいつも厄介者である。
マダガスカルにおいて,全艦隊は補助巡洋艦の諸艦とともに集合する。
我々の艦隊に追尾してくる汽船がある。この船は灯火を消した。これは決して物好きにする行為ではない。最初,このような情報を聞くたびに私は胸騒ぎを覚えた。しかしいまはそのようなことはない。もちろん,これは大いに恐怖感を起こさせるものではあるが,以前のようなことはなくなった。これはどうしてだろうか。神経が麻痺してしまったのか。
ここはいま夏である。しかしそれにも関わらず,ここには南極から昨冬の氷塊を運んでくる。それで夏だというのにこの海岸にはその氷塊がやってきて,巨大な氷山をつくり,それは水面上に100フィートぐらいの高さに達することもあるらしい。

2005/12/19 in  | posted by gen

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