バルチック艦隊技術将校,ポリトゥスキーの日記

12月2日

今朝9時にスワロフの艦内で赤道通過祭をはじめた。この祭は,まず裸の真っ黒な人が陸戦隊用の砲車を曳き,その砲車の上にはネプチューンおよびヴィーナスに扮した異様な者と,航海長,水先案内,ロシアの賎女,その他トリトン(神話に出てくる海神)などが乗って百鬼夜行的な行列ではじまる。行列にはラッパや笛などを吹く者も一列になって船首で演奏する楽隊の行進曲に合わせて艦尾の方から艦首の方に練り歩くのである。
艦首の高いところで演劇がはじまった。乗員一同の見物人は艦首に集まり,艦橋も檣楼も帆架も,みな見物人でいっぱいになった。将校,艦長,提督は艦橋で見物した。
演劇者はみな半裸で,体を黒,赤,青,黄,緑など色とりどりに彩色した。ネプチューン神は麻屑でつくった長い髭をつけ,三又槍を持っている。航海長は時針儀,望遠鏡,六分儀などを持った。賎女は子どもを抱いている。子ども(痩せ犬を使った)が歌劇の音楽に伴って泣く段になると,その犬の尾をきつく捩り,犬は苦し紛れにほえ叫ぶ。これを子どもの泣き声に見立てるのである。役者はなかなかうまく演じた。
甲板の上に帆布で水溜を作り,その中は水でいっぱいに満たされた。演劇が終わると,消防ホースを使って提督はじめ,水兵に至るまで水を掛けあった。
ついで役者一同はその水溜に飛び込み,それから見物人も飛び込んだ。水溜に入った者に,今度は大きな刷毛に白粉をいっぱい含めてこれを身体に塗りつけ,木でうまく作った大きなカミソリでそれらの人たちを剃りはじめた。水溜の貯水は,はじめはきれいであったが,身体を彩色した役者の人たちが入った後は不思議な色に変わった。各将校,艦長その他下士官に到るまで,ほとんどみな水溜に入った。みな彼らは例のカミソリで剃られた。
私や二,三の者は水溜に入るのを免れたものの,四方から水を浴びせられて全身濡れ鼠のようになった。逃げて隠れる者がいると,それを探し出して水溜に引き入れた。まかない頭は水浴を逃れようとして自分の部屋に逃げ込んだが,ついに逃げ切ることはできなかった。ハッチの蓋を開いて水を掛けられようとしたので,まかない頭は室内の中のものまで水浸しにされてはたまらないと,自分から出てきて水溜に入った。牧師先生も,この難を逃れることはできなかった。
最初のうちは足の方から入ることができたが,最後の方では足をつかまえて倒し,頭から入れられた。犬も入れられた。一匹の犬は周囲を人が取り囲んだので,びっくりして大声を上げた。
乗員はみな,この祝祭に大満足であった。とくに近頃までレーウェルの陸上にいた乗員にとっては,たいへんな楽しみであった。

4時ごろにマライヤにまたも何事かが生じた。同艦に艦長に代わって士官を遣わせた。スワロフからマライヤに士官を移乗させるために艦隊はみな動きを止めた。
艦長は,いまグレートフィッシュベイに向かって艦を走らせている。そこはポルトガル領である。何らかの故障でそこに向かうのでなければ,艦隊はドイツ保護のもとにあるアングルペクウェンに行くはずである。

2005/12/02 in  | posted by gen

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