バルチック艦隊技術将校,ポリトゥスキーの日記

2月27日

今朝は6時に起きた。終日,ジェムチューグスワロフアリョールボロジノアレキサンドルカムチャツカの諸艦に出張勤務した。カムチャツカで朝食を摂りはじめたところでスワロフに帰るように要請を受けた。スワロフでは定例の仕事があるためで,けっきょく朝食も食べられなかった。スワロフでの仕事は未だに終わらない。いまも続けている。
昨日,あなたに電報を出した。

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手紙を書き始めた。郵券を貼った封書は私のテーブルの上にある。上陸するときにいっぺんに投函するつもりである。郵便船は来月6日または7日に出航の予定だ。
水兵は上陸を許されていない。クロンスタットを出てから一度も上陸していない水兵がたくさんいる。レーウェルでは出航前に多くの人たちが上陸した。
近頃のことだが,カムチャツカのひとりの水兵が2個の救助袋を身に着けて舷側から海に飛び込み,陸に向かって泳ぎだした。しかし偶然,探照灯に照らし出されてカムチャツカに引き揚げられたのだが,その水兵は脱艦の理由を述べて,「海上の退屈に耐えられず,陸地に行きたくて忍耐できずに飛び込んだ」と言った。この水兵の境遇は実に耐え難いものなのである。
とくに私が奇異に思うのは,レーウェリを出航以来,上陸しようと思えばできるにもかかわらず一回も上陸しない士官がいることである。
ジプーチのこと(第3艦隊に合流する前にそこに行くという噂)はいまなお聞かれる。
私はいまの倦怠に耐えられず,家のことを想い,精神が何となく圧迫されるように感じている。この漂白がいつ終わるのか少しもわからない。私はこの艦隊から抜け出すために何とかしたいという欲求をまったく持たないわけではない。艦隊は戦争が終わるまで極東に行かないかもしれない。私はこの艦隊に乗り込んだことを後悔している。
明日も早朝に起きて,ジェムチューグと同じ型で建造されたイズムルードにも,ジェムチューグに生じたような舵の破損をあらかじめ防ぐための潜水工事をしなければならない。

あなたは,このノシベに軍艦旗・商船旗を掲げて碇泊している艦船が何隻ぐらいあるかを知る由もないはずだが,実に42隻もの多数である。その他にもここにいる艦隊の運送船は,その数もわからないほどである。
また,士官と水兵は果たして何人になるのか。たぶん1万2千人をはるかに超える人数であろう。
昼食が終わったら,郵便を投函するために是非上陸したい。再びなくしてしまわれないように他人に託すのは止めたい。私は郵便の差し出しをたくさん頼まれた。その中には公信書もある。まだジェムチューグには出張していないが,たぶん行かねばならないだろう。途中カムチャツカに寄ろうと思う。
天気はよくない。よくないどころか大雨で全身ずぶ濡れになった。オレーグに出張して,そこで朝食を摂った。この巡洋艦には30分も過ごした。オレーグの艦長は病気で,肺病とのことである。上席士官その他の者も,この艦では裸足で歩いている。エンクイスト提督は,その幕僚とともにオレーグに転乗するらしいが,この艦は彼らにとっては非常に狭いと思う。
従卒は手紙の投函を託しておきながらなぜか持ってこない。いまのところ上陸を妨げる用事もない。偶発事故もない。
運送船コルチャコフは,最初ロシアに帰還させられるものと想像していたが,帰還させないとのことである。今日,この艦ならびに運送船ヤコスラウリはジェゴスアレツに赴く。

今日の2時に上陸した。6通の公信書をみな投函した。
陸上の商店は雨後の竹の子のように続々と開店し,多くの新しいロシア語の看板が現れている。今日は「この商店にお立ち寄りください」とだけ書いてある看板を見た。今度新しく開業した「露仏喫茶店」の前を通った。物価はますます高くなっている。普通の店で,冷水に少しの酒石酸を混ぜた一杯が氷を入れないで50サンチームもした。
この土地の人の結婚式を見た。まず黒人が行列をつくり,市役所に行ってそこで帳簿に記名し,それから一同で会堂に行ってそこで牧師が結婚式を執り行った。二人の若い夫婦は靴を履き,ヨーロッパ風の衣装を着けていた。会堂では結婚式の最中に犬が会堂内を駆け回っていたが,誰もそれを制止する者はいなかった。たぶんここでは犬を不浄な動物とは思っていないのであろう。
牧師が式を行なうとき,一人の少年が従っていた。牧師は黒い立派な髭のある人である(もちろんヨーロッパ人の宣教師である)。会堂は黒人の参拝者でいっぱいであった。見物人の中には我々士官も多数いた。結婚式が終わって新夫婦は相携えて会堂にいる参拝者の間を回り,献金を集めた。私も1フランを与えた。黒人で満席の会堂でキリスト教の式典が行なわれるのを見るのは,慣れない者には異様な雰囲気であった。
水兵たちはどれだけ酒を飲むのだろう。今日もすでに感覚を失った水兵が担架で運ばれるのを見た。動き回って滑り落ちたのだ。見るに堪えない光景である。
オレーグ艦長の病気は思わしくないとのことだ。もし艦長の病気が肺病だとしたら,非常に悲しむべきことである。軽い肺病であっても,この地方の気候がすぐに影響して急激に悪化するとのことだからである。
士官室には,またもひとつの獲物が増えた。どこからか小さなワニを持ってきた者がいたのである。スワロフは,まさに巡回動物園のようになった。
来る3月中旬には出航して極東に向かうと思われる。果たしてこれが事実だとすれば,なぜ第3艦隊を増遣するのか。実に方針も熟慮も順序も何も存在しない。みな思うままに妄想を逞しくしているに過ぎない。

2006/02/27 in  | posted by gen

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