昨夜同じところに3時間も留まって漂泊した。ボロジノでどうしたことか舵機を破損したのである。この艦はいまなおその修理を終えていない。そのためにボロジノは艦隊の列外に出ている。
一隻の汽船が艦隊に向かって進んでくる。昨夜わが偵察巡洋艦が船の灯火だとした火の光は船の灯火ではなく星の光だったとのことである。航海中に地平線に現れる星光を誤って船の灯火と思うことはたびたびあるらしい。私もまた,このような星光を見たことがある。実に,時々船の灯火に関する幻覚が激しいものもあるとのことだ。最近露土戦争の際に黒海で全艦隊が星光を敵艦の灯火と誤ってことごとく遁走したということがあったという。もちろん,その間違いはすぐにわかった。
ノシベ停泊中は毎日太陽を見ていたが,洋上に出てからの2日間は毎日曇天でときどき雨模様である。