バルチック艦隊技術将校,ポリトゥスキーの日記

3月19日

昨夜同じところに3時間も留まって漂泊した。ボロジノでどうしたことか舵機を破損したのである。この艦はいまなおその修理を終えていない。そのためにボロジノは艦隊の列外に出ている。
一隻の汽船が艦隊に向かって進んでくる。昨夜わが偵察巡洋艦が船の灯火だとした火の光は船の灯火ではなく星の光だったとのことである。航海中に地平線に現れる星光を誤って船の灯火と思うことはたびたびあるらしい。私もまた,このような星光を見たことがある。実に,時々船の灯火に関する幻覚が激しいものもあるとのことだ。最近露土戦争の際に黒海で全艦隊が星光を敵艦の灯火と誤ってことごとく遁走したということがあったという。もちろん,その間違いはすぐにわかった。
ノシベ停泊中は毎日太陽を見ていたが,洋上に出てからの2日間は毎日曇天でときどき雨模様である。

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遠航中,船内の生活は毎日一様で平凡である。天気は少し変わり始めた。いま荒れられてははなはだ困る。艦隊は失望するほどにゆっくり航進している。こんな状態では港に着くのは容易ではない。大洋を完全に横切らなければならないのだ。
艦隊にはまたひとつの厄介なことが生じている。外洋で石炭の積み込みをしなければならないのだ。我が艦の右舷の方には牡牛や牝牛を置いている。牡牛は食料のために,牝牛は搾乳のためであるが,遺憾ながら乳は出ない。子牛は二頭いるが,これは飼育することになった。しかしほんとうに飼育できるかどうかは疑わしい。元来,船で四足獣を運送するためには専用の動揺を防ぐ獣舎を作らなければならないのだが,艦にはそのような施設はなく,牝牛は甲板の上に直立しているのである。

2006/03/19 in  | posted by gen

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