バルチック艦隊技術将校,ポリトゥスキーの日記

4月9日

夜は無事に明けた。今朝までは完全に無事だった。朝から艦隊は停船している。駆逐艦はいずれも石炭の欠乏を告げ,カムラン湾までの燃料が不足したために各駆逐艦は石炭を積み込んだ。
日本艦隊は何をしているのだろう。我が艦隊がどこにいるか,その場所を知らずに海上を探しているのではあるまいか。いや,そうではあるまい。我が航路がシンガポールからウラジオに向けて北上していることはすでに明らかなことである。日本艦隊は,あるいは我々の前途に先駆けて,どこかで待ち伏せしているのではないか。あるいはそうかもしれない。
我が艦隊がカムラン湾に寄港せずに直接ウラジオに航行するのではないかという噂もある。もし艦船がこのような遠路の大航海に耐えるだけの石炭を十分に積載することは難しいことではないはずだが,刻一刻ごとに敵の襲来を気にしながら外洋で石炭の積み込みをするのは知恵ある行為とはいえない。しかもはなはだ危険でもある。

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各駆逐艦の石炭積み込みが終わり艦隊は航行を始めた。
今日,奉神礼の祈りがあった。私は祈りに立ちながら,これはもしかしたらスワロフ艦上最後の祈祷になるのではないかと思った。あるいはそうなるかもしれない。次の祈りは奉神礼ではなく戦死者追悼の祈りになるかもしれない。すべてのことを予期し,かつすべてに対する備えをしなければならない。
今日,アナンバ島を通過した。提督は明日には日本艦隊に遭遇すると予想した。海上は静かである。多少のうねりがあって小さい艦は揺れている。我が艦隊がシンガポールを通過したという情報はペテルブルグではどのように受け止められるであろうか。第三艦隊はいまどこにいるのだろう。ウラジオ到着前に第三艦隊は我々と合流できるのか。我々はカムラン湾でこれを待とうとするのだろうか。
我々がもし無事にカムラン湾に入ることができれば,日本はウラジオの我が巡洋艦と我が第二艦隊と,さらに第三艦隊の三方面に当たらなければならない。このようになれば日本艦隊の戦闘力が割かれることになる。それは我々にとっては有利になる。
彼ら日本人はいまウラジオを警戒するためにこの地に艦船を遣わせているのではないか。ウラジオはまだ結氷しているだろう。ウラジオの結氷は毎年たいてい4月中旬に解氷するとのことだ。オレーグおよびアウローラは,目前に迫った交戦の際には戦闘をしている我が各戦闘艦に援護を与えることを命じられた。また巡洋艦の一部はカムラン湾に入ってこなければならない運送船の防御擁護の任に当たるべきことを命じられた。カムランまでは今日の正午からまだ千露里以上の航程を残している。我々は最後の一敗によってたちまち徒労に帰してしまう。日本の勝利の可能性はすでにはっきりしている。我々がマラッカ海峡を無事に通過することができたのはせめてもの幸いであった。日本はもとより我々がこのような冒険をするとは思わなかったに違いない。
我が艦隊がスンダ海峡を通過するということをしきりに伝える新聞や,この海峡附近に集まった我が石炭船とは,日本人にマラッカ海峡から一切の注意を奪ってスンダ海峡において我々を激撃するための準備をさせたに相違ない。マラッカ海峡付近において5隻の潜航艇が我が艦隊を待ち受けているとの領事からの報告もあったが,これははなはだ疑わしい。もしほんとうであったとすれば,なぜ我が艦隊を襲撃しないのだろう。

2006/04/09 in  | posted by gen

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