バルチック艦隊技術将校,ポリトゥスキーの日記

5月22日

石炭の積み込みはついに実施できなかった。天候がよくなかったからだ。今日も上甲板の艦尾の休息所で寝た。テレークは艦隊を離れて偵察任務――汽船の拿捕のために赴いた。
天気は一変して曇りだし涼しくなった。ある人はすでに感冒に罹りはじめた。フェリケルザム提督の病は重いが,何とかしてウラジオまで無事に到着させたいものだ。
夜9時,太平洋に別れを告げて東シナ海にいる。わが運送船は上海に向けて航行している。いまはこの運送船だけを向かわせることができた。上海には,ここで武装を解かれたわが艦船が出航することのないように日本の船がいるものと推察される。上海に向かうのはウォロネジウラジミールヤロスラーウリメテオルリウオニヤクロニヤなどである。もしかするとスウイリも遣わされるかもしれない。
メテオルは給水船,スウイリは曳船用汽船だ。スウイリは意外にも速度が至って遅い。もしこれらの船舶がみな離れ去るとすれば,商船旗を掲げてわが艦隊にいるのはコレヤルース(人々はこの船をローランドと呼んでいる)だけだ。ルースは曳船用汽船である。赤十字旗を掲げるオレーグコストローマも残る。軍艦旗を掲げている運送船はカムチャツカアナズイリイルツイシなどの諸艦である。イルツイシは九ノット半以上の速力を出せないとのことで,この艦が他艦の邪魔をすることになれば非常にまずい。
台湾を通過し,また日本領の若干の小島の沖を過ぎた。ウラジオはぐっと近づいた。東シナ海を横切り,朝鮮海峡を通過して日本海に入ることになるのだが,その沿岸に待ちに待ったウラジオがある。
日本人はどうしているのだろう。彼らはどこにいるのか。日本人は必ずわたしたちを攻撃するために堂々たる準備をしているに違いない。たぶん朝鮮海峡かその付近で激烈な水雷攻撃があるだろう。月の出の時刻が遅いので夜襲は防げる。艦隊戦があるはずだが,日本は必ずわが艦隊がウラジオに着く前にわたしたちに仕掛けてくるだろう。これは日本にとってたいへん都合がよいからだ。わが艦隊は大航海をしてきて、もし艦隊に残る運送船が4,5隻に過ぎないとしても,とにかく運送船で艦隊の活動を制限させられることを免れない。
日本はウラジオ付近に水雷を沈置したに違いない。そうだ。いまから一週間もたてば全世界にわが艦隊のうわさが伝わることになるだろう。
日没後には水兵にネルの下着を着るように命じられた。まもなく冬服を着なければならないだろう。
今日も石炭の積み込みができなかったので,また明日に予定されている。上海に赴く運送船の一隻に手紙を託すことができるだろう。果たして郵便差し立ての好機会があったが,たぶん誰もこの好機会を利用するための準備をしていないに違いない。◇

2006/05/22 in ポリトゥスキーの日記 | posted by gen

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